新世代キーボードの永字八法
この記事はAdvent Calendar 2018 自作キーボード#3の1日目の記事です。
「自作キーボード」という名前で国内のキーボードキットが盛り上がって1年ほどになるでしょうか。市場規模がまだまだとても小さいので、今日も先行者たちが銀の弾丸ことendgameを求めて突っ走っています。
今回は、トップダウン的ではありますが現状のキーボードキット/小ロットキーボードのもつ要素について書きます。
新世代キーボードの永字八法
現在までキーボードはタイプライターに起源を持つANSI/ISO/JISかつQWERTYが全盛であります。しかしながらこれらはすべて歴史的経緯による不合理の塊で、規格品で量産されているから入手性がよく、これさえ使えればどこでも同じことができるようになってしまったが故に使われているにすぎません。
そんな不自由なキーボードを滅する銀の弾丸のように登場したのがErgodoxです。このErgodoxは非常に革新的なキーボードであり、現在国内外で制作されている左右分割キーボードの多くはErgodoxの血脈です。Ergodoxはより効率的な入力を実現するための要素がふんだんに盛り込まれているため、新世代キーボードの永字八法といって差し支えないでしょう。
Ergodoxの持つ要素をそれぞれ見ていきたいと思います。
分割
Ergodoxをみた人々がとりあえず口にするのは「割れている」ということです。見ただけではっきりわかる違いです。
左右の手は独立して入力をするので1枚である必要はなく、左右の手が独立して自由な位置で入力できることで姿勢の改善が見込まれる、ということで話題になりました。現在でも国内のキーボードキットを買い求める人は分割を求めていることが多く、おそらく肩こりや首の痛みの特効薬だと考えているように思います。
閑話
残念ながら、キーボードを分割にしたところで首の痛みは治りません。キーボードを買い換える前にまず机と椅子、それとディスプレイの位置を見直すべきです。私は普段首の痛みなんて発生しませんが、とある場所で働いていた時だけ酷く痛み、日常生活にも支障がでました。調査したところ、問題だらけでした。
- 机が一般的なもの(H:700mm)より100mm低かった
- 机が一般的なもの(D:700mm)より100mm奥行きが短かった
- 椅子を後ろに移動する十分な空間がなかった
- ディスプレイの支給がなくノートPCでの勤務を強いられていた
基本的に、背中を曲げると首や背中、肩を痛めます。逆に背中を曲げなければたいてい問題ありません。 上記環境は、背中を曲げなければどうしようもない環境であったため、首に絶大な普段がかかっていたようです。
また、姿勢を支える筋力が低下して骨格で姿勢を支えている状況ではどうあがいても改善されません。歩いたり走ったりして姿勢を支える筋肉を用意してください。それだけで十分改善が見込めます。
銀の弾丸を手に入れても暴発する銃なら意味がないです。
左右対称
利き手があるとはいえ、人間の手は左右で対称な形をしています。にもかかわらず現在の規格キーボードは歪です。左手は最小限の数にもかかわらず、右手のカバー範囲は左手よりも3列多いです。さらにカーソルキーやテンキー、はてはマウスまで右手領域です。
左右対称形にすることで、左右の手の負担の差を減らすことが見込めます。
親指キー
規格キーボードでは何故か親指の役目が非常に少ないです。少なくとも現状は、非常に長いキーが親指のカバー範囲の大半を占めてしまっています。その悪しきキーの名は、スペースといいます。
意識して入力をしてみるとわかるのですが、大体叩く位置は決まっています。なんであんなにも長いんでしょうか?
JISだと無変換と変換がありますが、無変換はカタカナ変換、変換は再変換機能ですのでそんなに多用するキーではありません。
親指にアルファベット以外に高頻度で使うキーの役割を与えることで親指以外に文字入力に注力してもらうことができます。
人差し指キー
親指の次に強い指は人差し指です。小指に仕事を任せるなら、人差し指に任せるべきです。一番内側なので視認性もよいです。
列方向のの整列
タイプライターは鍵盤をたたくとハンマーが駆動してもじを入力する仕組みです。そのためハンマーが干渉しないように行方向に各行は異なる位置だけずれています。タイプライターの名残であって入力効率には一切関係がありません。ソフトウェアキーボードや、モバイルデバイスのハードウェアキーボードをよく見ると、規格キーボード同様に行方向にずれてるケースもありますが、列方向に整列していてZの行だけ右に一つずれているケースを見ることができます*1。しかし、それを意識せずに打鍵できる程度には入力効率に影響がないものです。
この中途半端なズレは、慣れれば全く問題ないですが、慣れるまで文字がどのキーに割り当てられているか惑わすだけの存在です*2。
列方向のずれ
各指の長さは違います。中指は数字行まで届きますが、ほかの指は頑張って薬指で、小指に至ってはQ行にすら届かないでしょう。
指の長さに合わせて上下位置を調整することで手の角度や位置を動かすことなく打鍵ができるようになります。
所感
どうでしょうか。こんな感じの情報がErgodoxには収められているように私は感じています。逆に、規格キーボードから変更がある要素が多すぎるため気合がないと常用することは難しいです。私はぶん投げました。毎日のようにヤフオクにErgodoxEZが流れているのを見るに、強すぎる道具に肉体がついていかなかった人々は少なくないように思います。そこら辺の背景から私はErgodoxに移行できた人々を"適合者"と呼んでいます。
私にはErgodoxは早すぎた、と感じているのでXD75にJISっぽい配列を割り当てて、レイヤリングを格子配置でぼちぼち楽しくやっています。